今回はre:InventのAll Builders Welcome Grant(以降ABWG)に応募を考えている方、採択された方に向けて準備事項などをまとめています。
2023年時点でABWGについて日本語で詳細を紹介しているのは本ブログのみになります。(私が日本人唯一&初採択のため)ABWGプログラム内容に関してはこちらを参考にしてみて下さい。
※re:InforceのABWGについても大まかな応募や準備内容は重複していると思いますが、詳細はご自身で確認ください
応募に向けて
Application Form
ここでは実際にどんなことを聞かれ、なにを意識して応募書類にまとめたのか紹介します。ただしあくまでn=1の感想であり、記憶がおぼろげ/以降変更の可能性があるので参考程度にお願いします。
応募のハードルは存外低く、3ページ分のApplication Formをオンライン上で提出すれば完了です。大まかな構成は以下のとおりです。
※全て英語です
1ページ目: 名前など基本情報
2ページ目: ABWGの対象資格に関するエッセイ
3ページ目: 技術的な経験に関するエッセイ
意識したことは2点です。
1: 経験の目的、インパクトを明確に示す
2: 数値など客観的な情報を活用する
まず1つ目は、自分を採択したらどのくらいの良い影響を与えられるのかをアピールしました。例えば以下だとどちらの方が初見で印象に残るでしょうか。
「私は技術関連のコミュニティ活動に自発的に参加し、ブログを書いて日々アウトプットしています。最新の記事では100を超えるimpressionがつきました」
「私はより初学者が学びやすいコミュニティを目指して、年間10回の登壇に加え各イベントの記録をブログで残し、当日参加できなかった人にも学びの機会を作っています。その結果記事を読んだ人が参加してくれ最新イベントでは初参加者が前年より10人増えました」
後者の方が同じコミュニティ活動をブログで発信したという内容でも、何のために行い、その結果どんな影響を与えたのかが明確ですよね。ここでの「影響」とは自分にとっての成長ではなく、他者にベクトルを当てた方が採択すべき理由につながりやすいと思います。
2つ目は誰が見ても分かりやすく強みをアピールすることです。私は学生での応募だったので例えば以下の感じです
「〇〇企業でエンジニアインターンをしました。バックエンドで観光客を対象にしたwebアプリ開発に携わりました」
「日本国内ユーザー数1位の〇〇という企業でエンジニアインターンをしました。バックエンドで観光客向けのweb開発を行い、〇〇という機能を1ヶ月でリリースした経験があります。」
一目で理解できるよう細かく補足しながら書くのが大事です。例えば企業名はベタ書きせず、サービスの内容やユーザ数といった客観的に規模感など伝わりやすくなるようにしました。社会人の方であれば携わっている仕事内容を可能な範囲でどんな経験、能力があるのかを明記できればいいと思います。
学生の場合は直接利益を生むという経験が少ないかもしれませんが、ここではなにを学び、これからどんなことをしたいのかを言語化できることが求められていると思います。決して嘘は付かず、実績を過小評価せず、明確に客観的指標である数値などを上手く活用してアピールしましょう。
英語力
ABWGはCEFRのB1程度は必要だと思います。ネット上ではre:Invent自体は中学英語ができれば大丈夫と見かけることもありますが、ABWGにおいては「中学レベルの文法、英単語を理解して使いこなせる」と解釈してください。なぜなら企業ブースやセッションなどでは参加者はお客様なのでわかりやすい英語に切り替えてくれることも多いですが、grantee同士は仲間という認識があり技術的な話題以上に日常会話やstorytellingの場面が非常に多いためです。
このプログラムはDEIが管轄していることもあり世界中から様々な人が採択され、当然英語が母国語ではない人も選ばれています。むしろ様々なアクセントの英語話者が集まるので常にネイティヴの聞き取りやすい英語ではないことも多いです。(実際私のメンターはインド人でした)
そのため難しい表現をする必要はないですが、会話のキャッチボールを続けられることが大事です。セッションや応募フォームは翻訳アプリなどを駆使すれば大丈夫ですが、人とのコミュニケーションで常にアプリを使うのは難しいです。なので英語に苦手意識のある方は事前に練習してから渡米することを強くおすすめします。
英語が好きな方、得意な方はより丁寧な表現の語彙を練習してみるのがよいです。granteeは日本語風に表現すると"ABWGに選ばれて光栄だ, とても名誉な機会を頂けて感謝している"というような言い回しを多用します。スピーチや会話の中で相手に感謝や気持ちを伝える際に、より感情を伝えられる言い回しを勉強しておくと必ず役に立ちます。
AWS経験
私は応募時全くの未経験でした。どの程度かと言うとAWSアカウントを保持していない(つまりは触ったことない)レベルです。採択後に慌ててCloud Practitionerの勉強を始め基礎知識を備えてから渡米しました。
granteeを見ると全くの初心者というのは稀で、何かしら業務などで取り組んでいる方々ばかりでした。ですがTech業界の若手を対象にしているのでものすごく技術力が高いというわけではなく、passionがあってこれからAWSを使ってこんなことに取り組みたいという目標がある方が多い印象です。
なのでAWSを使っていなくてもpassionがあるのなら応募できます。ここでのpassionはAWSやクラウド技術、DEIの取り組みなどABWGが関連しているトピックに関して何らかの経験があることを想定しています。実際私はAWSの経験こそなかったですがWomen in STEM領域でインターンの経験がありABWGの目指す理念にばっちり当てはまっていました。また大学の専攻がCS系なので体系的に技術の基礎を理解できていたのも大きかったと思います。100%要件と当てはまっていなくても何が目に留まるかはわかりません。少しでも興味がある!違う部分でリカバリーできるならぜひ応募してみてください(ダメ元でも応募することが大事)
採択されてから
ここでは採択されてから渡米まで順序立てて説明していきます。
基本情報
- Grant teamとの全てのやり取りは英語
- ひたすら行動力が超重要
- 日本での準備が全体の9割を占める
Grant teamとのやり取り
ここでは公開できる範囲で残しておきます。
採択が決まると一定期間のうちに続々と手続きの連絡が届きます。
絶対に連絡を受け取ったらその日のうちにタスクに取りかかって下さい
連絡は時差が17時間あることもありすぐに返ってきません。また最初の連絡はre:Inventの参加登録や航空券など重要なものばかりです。私は一部やり取りに1週間程度かかり締切当日夜中までメールチェックするはめになったので、本当に余裕を持って終わらせることをおすすめします。
またここでは遠慮は不要です。何か分からないことがあったら必ずGrant teamに相談しましょう。内容にはよりますが一見簡単なことでも質問して回答を文面で残しておくことは大事です。Grant teamはとても協力的ですが、顔の見えない相手の心境を読むことはできません。自分からどんどん助けを求めて下さい。
日本でやっておくこと
ネットワーキング
- 事前勉強会
もし参加圏内にお住まいの方はぜひ現地参加することをおすすめします。事前にre:Inventに行った/行かれる方と連絡先を交換したり情報収集ができます。私はここで出会った方と現地で観光したりパーティに参加しました。ただし会場の人数制限があるのでABWGに応募したら同時に申し込むのが良いと思います。(2023年は東京と大阪で開催)
日本から参加する人向けのコミュニティグループがあるので必ず参加しましょう。前年までの情報や期間中のSWAG情報など盛り沢山です。期間中きっと役に立ちます。
- X(Twitter)
エンジニアなど技術職の方が期間中に発表されるアップデートなどの速報を続々と投稿しています。また勉強会などイベント時に豆知識が拡散されていたり、準備など何か質問したら返してくれる優しい人が多いです。
ABWGでは多用するので必ずアカウントを作成して中身を作り込んでください。海外の方と名刺代わりに使います。採択されたらその旨投稿すると続々と世界中の採択者からコンタクトが来ます。ここでコンタクト申請だけでなくメッセージを交わしておくのがおすすめ。現地に着いてから個別に会うなど交流しやすくなります。
- JAWS-UG
既にAWSを勉強/使っている人はコミュニティに参加するのもおすすめです。ここに参加している人はHeroやCommunity Builderといった認定を持った方々も多くいます。勉強熱心で親切な方が多く、実際に現地に行かれる方も多く参加しているので勉強や交流がてら顔を出してみるといいと思います。
日本人や採択者と事前に顔見知りになっておくことで、現地で何かトラブルがあっても精神的負担が減ります。ここに労力をちゃんと割きましょう。
荷物の準備
基本的にこちらのブログに書かれてる通りに準備すれば大丈夫です(勉強会でおすすめされたので本当にこれだけでいい)
加えて以下のものがあると便利
- きれいめな洋服
ABWGのイベントでドレスコードの指定はありませんが、特にMentoring Luncheonはドレスアップまではいかなくともオフィスカジュアル程度が無難です。色はなんでもいいのでシャツやブラウス、ジーンズ以外のボトムスを持っていってください(ジャケットはなくてもOK)。足元はスニーカーで大丈夫です。また安価なもので十分なのでネックレスなどアクセサリーをつけると華やかになるのでこちらもお好みで。
- プレーリーカード
日本人の方との名刺交換で活躍します。社会人の方は企業のものでも大丈夫ですし、学生の方は紙での名刺をCanvaなどで作っても大丈夫です。ですがより情報を集約できるプレーリーカードは以降の交流のきっかけになるので1枚作って損はないです。
- 折りたたみケトル
ホテルでお茶を飲んだりするときに大活躍します。基本的にアメリカのホテルは付いておらずルームサービスも高額なので日本から持参した方がいいです。(こんな感じ)
- コンパクトなカバン
granteeは現地でSWAGとしてリュックをもらえます。帰りの便でリュックを2つ背負うわけにもいかないので、行きの手荷物はスーツケースにしまって帰れるくらいの薄いカバンを選ぶと重量制限も気にしなくて済むので楽です。
- セキュリティポーチ
re:Playなど夜の出歩き用に小さいバッグを持っていきました。私は海外旅行自体に慣れていなかったのでスキミング防止素材のものでクレジットカードなど分散して持ち歩いていました。企業ブースのSWAGでミニバッグをゲットできるとも聞くので心配な人は検討するといいです。(購入したのはこちら)
知っていると便利なtips
セッションの選び方などはネット上にたくさん投稿されているので色々と探してみるといいと思います(数が多いのでこちらのブログおすすめ)
ここでは実際に活用して便利だった方法を残しておきます。
- スケジュールを画像として保存する
公式アプリはたまにネットワークの問題でスムーズに開けないことがありました。移動の時は急いで確認したい場面が多いので、スプレッドシートなどに記入してスクリーンショットを保存しておくと便利です
- Google Calendarでスケジュール管理をしない
実際の失敗談ですが、このアプリは現地のタイムゾーンに合わせて表示してくれます。なので日本でJST基準で追加すると、現地に着いた途端PST表示に切り替わりスケジュールの順番が崩れます(自動で元ある予定をPSTに合わせて変更してくれない)そのため公式アプリと上記スプレッドシートの使い方がいいのかなと思います
- 会場mapを待ち受けに設定する
初参加でホテルの位置関係が掴みきれていなかったので偶然拾ったこちらの画像がとても役に立ちました!特にABWGのイベントはメインのVenetianから離れていることが多いので、初参加の人は試して損はないです
現地に着いたら
ここでは期間中に気をつけること、やっておくといいことなどを紹介します。
- 常にABWGのSlackを確認
期間中はgrantee同士でUberのライドシェアや朝食を一緒に食べようといったお誘いメッセージが飛び交います。granteeは数百人おり全員と話すのは難しいので、ぜひタイミングを逃さずにどんどん交流の輪に入ってみてください。
- 参加イベントのバランス調整
上記に関連してgrantee同士のイベントと日本人向け(例: Japan Night)のものが重複することがあります。難しいですが途中参加するなど上手く時間をずらして参加できるとよいと思います。(ただしGrant teamから連絡があるものが最優先です。あくまで観光や個人的なgrantee同士のイベントという意味です)
- テーブルマナーの確認
Mentoring Luncheonではコース料理をいただくので事前に基本的なことを覚えておくと便利です。フランス式、イギリス式など細かいことまでは気にしなくて大丈夫です。(私は全く慣れておらず隣に座ったアメリカ人のgranteeに0から丁寧に教えてもらいました...)
参加に向けて
学生の方へ
re:Inventはラスベガスで開催されるので最低でも1週間は授業を欠席する必要があります。私は利用しませんでしたが、いわゆる公欠のような扱いにしたいと大学側に申し出たい時は、AWSに相談すればgrantの提供やイベントの招待について説明する文書を大学宛に出してもらえます。学生の本分は勉学なので調整が大変だと思いますが、もし興味があるのなら最初から諦めず教授や事務課などに相談してみてください。
(余談ですが時差ボケがあるので前後1日は休息できるよう調整できるといいです。私は現地でやりたいことを詰めすぎた結果毎日3時間睡眠でre:Inventを乗り切り、帰国後1週間頭が働かなかったです...)
実際に採択された方へ
出発前に諸々準備を進めつつ、ぜひSNSを駆使して日本からのgranteeを探してみてください。私がABWGの採択通知を受けた時は他にも日本からの採択者がいると思っていましたが実際には自分一人かつ初めてということが分かり、母国語の情報やツテもないまま手探りで準備を始めました。完全に1人だと情報漏れや確認が全て英語で不安が大きいです。もしこの記事を見つけた採択者の方がいればぜひご連絡ください。何かしらお力になれるかもしれません。
またインドなどは採択者が複数おり同国出身の強いコミュニティが形成されていたりしました。ABWGは2021年から始まりまだ3年分の情報しかありません。日本だけでなく情報網はまだ形成段階なのでre:Invent全体の情報とABWGの情報を交互に確認されることをおすすめします。
最後に
このAll Builders Welcome Grantはただの助成金プログラムではなく世界中から志を持った人々が集うコミュニティです。今まで何かしらの理由でチャンスを掴むことができなかった人がAWSのDEIチームによって人生を変えるほどの大きな機会を得ることができます。
このコミュニティ内では誰もが平等で公平な機会を得るという徹底した配慮のもとgrantee同士を尊重する文化が根付いています。過去の採択者がAlumni memberとして助け合ったり、聴覚や視覚が敏感でライブのような空間が苦手な人には別室での交流イベントを開催するなど、一見見えにくい細かな障壁も取り除いてくれます。
準備をする中で日本にいる時からサポートを申し出てくれた方や、LinkedInでこまめに交流していたgranteeが米国内でトラブルに遭ったら連絡してと電話番号を教えて気にかけてくれるなど、本当に多くの方の支援のもとで参加することができました。
来年以降、自分の可能性を信じる次世代の挑戦者が日本から1人でも多く採択されることを願っています。